遠くなってゆく背中
はるか昔、自分の中学時代、部活の想い出。
中3の6月、中学最後の大会かも知れないその日。前の年の新人戦で4位だった私は最低でも3位以上、できれば優勝!を胸に会場に向かいました。陸上部の部長もしていましたので、個人のことだけでなく、部員全員の仕上がりも気になりました。そう書くといい部長だったように見えますが、実は大会前日、調整練習をさぼっていたところを先生に見つかり、大目玉を食らっていました。1年生もいる前で先生から大変厳しく叱られました。そんな無様な姿をさらしてしまったこともあり、私は絶対に順位を上げてやる!と大会当日意気込んで家を出ました。
会場につき、プログラムを確認したとき、思わず「おおっ」とうなりました。新人戦で1位だったライバルが3000M1本に絞り、私が出る1500Mに出場しないことが分かったのです。しかも私の組にはほかにマークしていた選手は誰もいません。「絶対、組で1位になってやる!」とスタートラインに立ちました。
1500Mという競技はまず300M走り、その後400Mトラックを3周する競技です。
まず最初の100Mでよい位置をゲットすること、あとは流れに任せ、ラストで勝負するのが定石です。
30名弱が一斉にスタート、激しい位置取りのため、まずはしっかり飛び出さなくてはなりません。
うまく4番手くらいにつけ、順調に周回します。なかなかいいペース。レース半ばで2位にあがり、先頭の選手に引っ張ってもらいながら、どこで仕掛けようかと考えていました。
先頭にいたのは全く知らない選手。少なくとも前年の新人戦で入賞していた人ではありません。
1100M地点、ラスト1周の鐘が激しく打ち鳴らされます。
「よし!」と思ったのもつかの間、その思いは瞬時に「あれ?」に変化します。
前にいたのは今でも覚えています、五中の近藤選手。彼の背中が少しずつ、少しずつ離れていきます。
あと300、あと200、手を伸ばせば触れるくらいぴったりついて走っていたのに、その姿が3メートル、4メートルと離れていきました。
結局、ゴールでは4秒差、20メートルもの大差をつけられ、負けました。
ラスト1周のあの約70秒のことは、何度も思い出しているので今でもよく覚えています。
完全な力負けでした。相手は強かった。何かに負けそうになった時、心が折れそうになった時、私はあの場面、あのときの悔しさを思い出します。
1位でゴールすることしか頭になかった、見に来てくれていた両親、祖父母にもいいところを見せられると思っていた。
そのわずか数分後、結果は無残なものでした。
あとで聞いてみると、近藤選手のいた五中長距離陣の走り込みは私たちの中学の練習をはるかに上回っていました。
新潟では冬は外を走ることができませんので、部活は屋内練習になるのですが、その冬場の練習で逆転されていたわけですね。
それなりに自分も練習はしていたし、手を抜いていたわけでもないつもりでした。
しかし、あとで思えば甘いところがたくさんありました。
結局その近藤選手が優勝、他組の2人が2位と3位に入り、私は新人戦と同じ4位でした。新人戦を上回るという目標をもって戦いましたが、かなわなかったのです。
人生で悔しかった経験はほかにもたくさんありますが、この経験によって「後悔先に立たず」、さらに冬場に急成長していた近藤選手がまざまざと見せてくれた「為せば成る」ということを実感したように思います。
マークしていた相手に負けるのならまだしも、伏兵ともいえる相手に足元をすくわれたこの経験は、いまだに私に力を与えてくれるのです。
何事も思い通りにはいくとは限らない。
だからこそ、精いっぱいの準備、人一倍の努力をしなければならない。
成功する人、勝つ人というのは、必ずそういったことを実行しているのです。
思っているだけではなく、実行が伴うかどうか、やはりこれですね!